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藤本 孝一郎(城西短期大学 ビジネス総合学科教授)
山本 公敏(常葉大学 経営学部准教授)
坂本 眞一郎(常葉大学 経営学部名誉教授)
従来、作文・小論文制作指導では、学生の能力にばらつきがあり、指導上の困難さを感じていました。小論文作成能力向上の支援方法を、模索しています。LMS(Webclass、城西大学学習支援システム、データパシフィック社)で、デジタル教材利用とルーブリックを活用していました。
過年度の生成AIツール利用実践の経験で、AIツールでのプロンプト(以下、Prompt)創発に困難さを感じていました。本年度は小論文制作支援に、AIツールのプロンプト考察を進めた授業実践を試みました。
ゼミナール学生(藤本担当、短期大学2年生、ビジネス総合学科)の本学学部編入の小論文課題の合格水準達成能力向上を目標とし、ルーブリック・シート(過年度はWebclass教材)とともに、いくつかの生成AIツール(後述)による、目標水準の文章を導出できるPrompt制作を経て、参考答案提示による授業実践を試みました。
知見として生成AIツールとのプロンプト形成にAIツール活用の効果等が得られました。
(1)対象科目
2年次ゼミナール演習A(春学期13回、2年生10名、2023年度)で試みました。(なお1年次より継続して担任する1クラス)授業内ワークとして春学期(2024年度4月から7月中旬)の実質10回授業を対象期間としました。
対象者
希望者:学部編入志望学生(4名)
(2)授業システム
PC設置教室、Webclass授業をベースシステムとしました。全体進行での課題ファイル取扱いはTeams (Microsoft365)上の「編入コースチャネル」としました。
小論文課題を順次与え1週間後のファイル提出を求める方式としました。テキスト資料・模範解答等は教員が提示します。さらに教員は生成AIツールの文章生成結果を加工し参考解答としました。
(3)ルーブリック
経営管理系の小論文テーマに沿った文章制作過程での基礎的視点としました。なお過年度の内容に応答性(時間)を評価項目に加えました。
(4)チャネル(Teams内)
希望者グループを設定しました。(構成はWeb classの学習カルテと対応。)学生と教員がP2Pの形でアドホック(ad hoc)なコミュニケーションを可能となり、個別チャットへの誘導が容易になりました。
(5)生成AIツールとPrompt
目標試験レベルの参考解答制作に役立つブラウザ(Web-browser)利用可能なソフトを検討しました。過年度の経験からより効果的なPrompt仕様を選択指針としました。
図1 プロンプト検討アイデア出し
(部分:小論文評価項目、monjuを利用)
(1)概要
小論文課題を短文(当初200字から400字)作成としました。採用図書から、10テーマを順次与えました。試行を経て各回、口頭によるヒント提示の後、1週間後のファイル提出を求める方式としました。課題提出時にルーブリック・シート(Excel、Microsoft 365)に入力します。また教員による添削後解答を提示しました。
期間経過後アンケート提出を求めました。次に概要を示します。(表1)
表1 小論文学習ワークの授業計画
(2)ルーブリック
授業の当初で、文章制作過程の基礎的注意点で構成しました。答案提出時に入力する方式とし、各評価点(*<…>)を1〜4の段階で設定しました。
表2 小論文評価点
なお一つの課題につき「自身の評価」「模範解答の評価」「参考文(添削)の評価」の3シートへ入力する形式となりました。
図2 ルーブリックシートとチャネル
(部分:提出者自身の評価、フィードバック過程)
(1)状況
最終的に、推薦書類の各自提出小論文は、修正不要で認められました。
全体として解答提出など進捗のばらつきは、過年度よりも大きく減少しました。(内1名、例外的遅延が1度のみ。)期間経過後、個別ヒアリングで対象学生によるアンケート評価に臨みました。過年度と同様、反応は好評価でした。(なお1名が進路変更のため、対象者3名)特にチャネル内で、「互いの文章の可視化」は高い評価でした。
(2)生成AIツールとプロンプト導出
過年度のCopilot利用経験からプロンプト創発に困難さを感じていました。そこで当初よりPerplexityを利用する文章生成に着目しました。(2024年1月から試行)
図3 文章生成のためのPrompt出力例(Claude3)(小論文形成目的)
「生成AI自身にプロンプト評価をさせ、更新した出力からフィードバックを繰り返す方法」に行き着きました。
図4 Prompt適用・検討サイクル(Claude3、Perplexity)
最終的にClaude3のプロンプト集(小論文分野)から、出力修正のフィードバックを重ねる手法となりました。参考答案制作の時間と添削作業が改善しました。
また参考解答とともに随時、利用したPromptを取り上げ、アドバイスに活かしました。提出答案作成のため長文にまとめる場合に、出題意図に沿う注意点への関心が向上しました。[注2]
図5 制作アドバイスのためのプロンプト出力例(Claude3)[注3]
今後も、ICT環境の進歩を活用した文章形成能力状況や思考過程を、教員・学生ともに可視化・共有できる手法を検討してゆきます。
注 | |
[注1] | ChatGPTより自然な文章生成が可能と評価されている(2024年4月時点) |
[注2] | なお過年度と同様、指導者にとってワークの過程・進捗度の全体把握の容易さ、および解答公開に消極的な学生の参加意識の向上が見られた。 |
[注3] | Claude3公式プロンプト集 https://docs.anthropic.com/en/home |
参考文献 | |
[1] | 非語学系教員による留学生の作文能力向上のための授業実践,ICT利用による教育改善研究発表会資料集,私立大学情報教育協会(2020). |
[2] | 生成系AIツールを活用した小論文作成支援の授業実践,ICT利用による教育改善研究発表会資料集,私立大学情報教育協会(2023).他 |