巻頭言
高倉 公朋(東京女子医科大学学長)
平成9年7月に学術審議会より情報学研究の推進方策について中間のまとめが発表された。21世紀に向けて、我が国の情報分野の研究が欧米に著しく遅れている現状を早急に是正し、世界に貢献する観点から、第一に研究体制の飛躍的な整備、充実を人材養成と併せて推進し、情報科学、計算機科学の充実とともに、生命科学、人文科学系などの分野と広く関連を深めて、その推進を図る。第二に情報の意味や価値を見据え、情報に関する学問の体系化に向け、必要な研究を進めるという基本方針をまとめている。
東京女子医科大学は、西暦2000年に大学創立百周年を迎えるので、その期を節目に21世紀に向け、国際的に優れた医科大学として発展するように、さまざまな構想が練られている。先端的で高度の医科大学とするためには、優れた情報機構の整備が基本的に必要である。医科大学の使命は医師の教育、患者のための質の高い先端的医療の供給と医学の進歩に貢献する研究の推進に集約される。コンピュータ技術は日進月歩で進歩しているので、現在の技術に目を捕われることなく、10年、20年先の展開を見据えた情報機構を整備することが求められている。しかし、教育、診療、研究の三つの分野で求められる情報は、それぞれ異なった面が多い。
第一に教育面では学生が能率良く理解、学習できる情報教育が求められる。本学が重要な教育目標としている自学・自習によって、自ら課題を抽出し、理解し、解決する能力を養うための多面的な情報システムが必要になる。今日では、大学間講義単位取得の互換性が重視されてきているが、他大学の著名な教授の講義を受けることができるような外国も含めた遠隔地テレビ講座の実現も可能と考えられる。手術のような医師教育に必要な実技について、手術のテレビ画面で実習することは今日でもある程度行われているが、画像を用いた教育は今後一層進歩すると考えられる。
第二に病院における医療情報は、患者の病歴、検査データ、薬品・物品の管理、医療会計情報等多岐にわたっている。電子カルテの導入も必要であるが、医療現場における情報ネットワークは、個人の人権、プライバシーを守るため、きわめて厳重な管理が基本である。またE-mailやホームページの活用も便利である一方、膨大な問い合わせ、相談等、現実にどのように対応すべきか、など多くの問題をかかえており、教育のための情報機構とは根本的に異なった面を持っている。
第三に研究面での情報システムにおいては、情報検索データベース化、インターネット化等、幅広い知識の習得を目的とすることは、すでに一般化しているが、さらに充実する必要がある。一方研究面で医学と工学が協力し、21世紀医療で重要なコンピュータ支援外科の開発、遺伝子解析、脳の高次機能の解析等に幅広く応用されることが期待される。医科大学における情報機構の整備は、医学の進歩のために欠くことのできないものであり、大きな夢を実現することは疑いの無いところであるが、一方で情報の真の意味や価値、弊害を正しく見極める哲学、理想を持った専門家としての情報管理者が必要である。