特集

ノートパソコン利用を考える(事例2)


東京薬科大学生命科学部
(マルチメディア英語教育)



はじめに

 筆者が非常勤講師として勤務する東京薬科大学生命科学部では、1994年の開設以来ノートパソコンによる情報処理と専門教育に重点を置き、新入生全員(約180名)に同一メーカーのノートパソコンを使用させている。また、1998年度からは普通教室(定員140名)に席数分の情報コンセントを設置して、ネットワークを利用した授業ができるようになった。
 このような環境の許で筆者が担当した授業はパソコンを使ったマルチメディア英語教育で、語学力育成を通して学生の専門教育に寄与しようとするものである。授業の課題の一つとして取り上げたのが英語によるパソコンを使ったプレゼンテーションである。パソコンによる効果的なプレゼンテーションを行うために必須の道具として辿り着いたのが画面共有ソフトであった。
 本稿では、画面共有ソフトを活用し、英語の授業の中でプレゼンテーションなどの表現活動を活性化させる試みを報告し、同時に将来の可能性を指摘する。


1.ノートパソコンの使用状況

 東京薬科大学生命科学部で新入生に共通に使わせているのは Macintosh PowerBookである。シリーズのうち 1400cs および 5300cs は大学生協で扱い、いずれか一方の購入を強く薦めている。共通のハードウェアを使うことを前提に授業をしているので、これら以外の選択肢は実質的にないと言ってよい。
 ノートパソコンを使用しているのは筆者らが担当する英語の授業のほか、コンピュータ・リテラシー科目及び多くの専門科目である。
 上記 PowerBook はいずれもイーサネットアダプターを装着した状態で、10-BaseTケーブルとともに教室に持ち込むことが求められている。この他に同機種で授業中貸出用のものが10台前後あり、うち1台を教師用として使用している。Macintosh による英語の授業にはTA(助手)が付いていて、授業の補助の他これら貸出用機の管理も行う。


2.英語授業におけるノートパソコンの使用

 1年次の英語 (EFL) の授業は、「Macintosh」、「コミュニケーション」、「読解」の3種類に分かれ、2年次の英語 (EFL) の授業は、「Macintosh」、「コミュニケーション」、「ビデオ」、「読解」の4種類に分かれている。1998年度は、1年次のMacintoshの授業は1学年を2分割し、一方はデスクトップ教室で、他方はネットワーク対応普通教室で PowerBook を使って授業を行った。いずれもクラスサイズは27名前後で、授業は週1回45分である。
 1年次のMacintoshの授業は、基礎的な操作法から始めて、CD-ROMの使い方、ワープロソフトの使い方、インターネットの情報検索、メールの送受信、簡単なWebページの作成などを行うことになっている。筆者の担当クラスではその上でそれらの総合的な演習として、次の形でグループプロジェクトを行った。
  1. クラス内で3〜5名のグループを作り、プロジェクトで取り上げるテーマを決める。

    写真:授業風景

  2. テーマは生命科学に関することなら任意。
  3. インターネット等で前提知識や現状の問題点等を調べる。
  4. テーマについてのアンケートを取り、人々の問題意識を調べる。
  5. 隔週1回進捗状況をクラリスワークスを使ったプレゼンテーション形式で報告する。
  6. 授業担当者は報告をビデオ録画し、翌週抄録を見せながら講評する。
  7. 最終回に調査事項すべてをまとめたプレゼンテーションを行う。
 なお、授業は筆者の指導・学生の発表を含め、すべて英語で行われた。


3.画面共有ソフトの効用

 進捗報告および最終のプレゼンテーションは、クラリスワークスのスライドショー機能を使ってスライドを液晶プロジェクターで投影して見せながら説明するという形を取った。発表支援者がプロジェクターが繋いである教師用機でファイルを開き、発表の進行に合わせてスライドを見せる。この方法を開始した直後いくつかの問題点があることがわかった。
  1. スクリーンは十分大きいとはいえ、細かい文字や図は読み取れない。
  2. 部屋を暗くしなければならないので聞いている学生はメモを取りにくい。
  3. 聴衆の学生は自分のパソコンをいじっていて、発表を聞いていない。
 これらを解決するために、フリーウェアの画面共有ソフトを使って教師用機の画面を聴衆学生のパソコンで見られるようにした。使ったソフトは "Timbuktu Pro" の簡易版で "Look@Me" という (Fallaron, 1996)1)。これは前者のように遠隔操作はできないが、画面の提示を可能にする。教師用機と学生用機の双方で "Look@Me" を立ち上げておき、学生用機で教師用機のIPアドレスを記入し、教師がアクセスを認証すると教師用機の画面が学生用機の画面の中に新しいウィンドウとなって現れる(図)。
 このソフトを使い始めてから上記の問題点はほぼ解消された。聴衆は画面コピーを撮ることもできるので、図やグラフが提示されたときに書き写す手間をかけずにプレゼンテーションに集中できる。部屋は明るいままでよい。授業担当者やTAが巡回して学生がプレゼンテーション画面を出しているかどうかを確認することができる。また、共有画面はリサイズできるので、プレゼンテーションばかりでなく教師の説明を見ながら自分で操作してみるといった使い方も可能である。

図 “Look@Me"の使用画面

4.今後の課題

 もともと "Look@Me" は教室のような厳しい環境下で使うことを想定していないので、閲覧者が多くなると教師用機の画面切替が極端に遅くなってしまう。これについては 1) 学生用機の画面色数を256色に設定させる、また2) プレゼンテーションファイルをなるべく軽いものにさせることである程度は回避される。根本的には 1)ソフト・ハードのパフォーマンスの向上、2) 100Base-T あるいは光ファイバーによる多容量ネットワークの実現などを待たなければならないであろう。しかし使用環境を選べば、CALL教室のような設備投資をしなくても簡単に単方向ネットワークができる点で注目されてよいソフトである。そしてこのような授業形態をとってこそ、ノートパソコンを使う意義がいっそう高まると思われる。



[注]
1)「Mac Power」1998年8月号付録
 
文責: 玉川大学文学部外国語学科
  助教授 安間 一雄

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