体育学・スポーツ科学の教育

福岡大学における「体育情報処理実習」について


青柳 領
(福岡大学スポーツ科学部教授)



1.体育情報処理実習の概要

 体育学部の2年次生を対象とした専門科目として「体育情報処理実習」は、270名程度の学生を前・後段2回に分けた、5日間の夏期集中講義の形式で実施して10年になる。情報処理の知識・技術体系は順列的で、前の時間の講義を理解できないと次の教材の理解ができない場合が多い。この点、体育学部生は学期中も試合や合宿などで欠席する場合が多く、集中的に開講することにより教育効果を上げる工夫をしている。選択科目ではあるが、当該年度学生の9割程度が履修し、それを教員3名(教授、助手、非常勤講師)が中心となり、教育技術職員2名と当該研究室の大学院生(TA)が補助している。多人数に加えて、学生の情報処理の理解度にもバラツキが大きく、扱う内容はより共通的・基礎的な教材を扱わざるを得ず、労力面でも講師陣の負担も大きい。幸運にも、多人数を収容可能な教室と豊富な台数が全学共同利用のセンターにあり、履修制限をせずに実施している。学生の登録料も無料で環境的には恵まれている反面、教材は当然センターに用意されている、他学部と共用のソフトの中からの選択を余儀なくされている。


2.他教科との関連

 体育学部は運動生理学、バイオメカニクスなどの理系の専門科目と、体育原理や体育史といった文系の専門科目が混在する学部である。したがって、将来の学部生の専門性(卒業研究、ゼミ)を考え、数値データの集計をする「計算機」のみならず、文字や絵を描き、言葉を伝える「文房具や通信機器」としての活用にも考慮している。当初は、2年次前期の体育統計学と後期の「体力測定および評価」の間に開講されることから、「体育統計学では、理解のために主として電卓を用いていた統計計算を、体育情報処理実習でパソコンを用いて効率的に処理できるようになり、後期の『体力測定および評価』では、実際に測定した体力データを各自が統計処理し、レポート提出する」という他教科との関連が重要視され、SASなども教材に組み込まれていた。しかし、近年のインターネットの普及から、ホームページの閲覧・作成や電子メールなどに変更するなど、毎年度教材の見直しをしてきている。また、専門科目としての性格上、できる限り、体育やスポーツに関連したデータを題材として用いるように心がけている。これらの配慮から、心理学実験などの実験系の科目でのデータ処理や、社会調査実習でのアンケート調査の集計の「事前教育」として意味合いを担っていると考えられる。

図1 他強化との関連

3.具体的実習内容

 現在実施されている5日間の実習では、教室の都合から、初日に全体を2グループに分け、ワープロによる文書作成を行う。キーボードに慣れ、日本語変換をスムーズに行うという経験は他のすべての教材に先行して実施される。特に、独自のブラインドタッチソフトを作成し、学生にフロッピーディスクで配布し、一定以上のスピードでキータッチができることを課題にしている。キータッチの練習状況(日時、成功回数、失敗回数など)はフロッピーディスクに記憶されるようになっており、回収したフロッピーディスクから学生各自の学習状況を把握できるようになっている。2日目も2グループに分かれ、UNIXの環境下で、スポーツ関連情報を中心にホームページの閲覧や、お互いに電子メールをやりとりする。3日以降は、全体を3グループに分け、各々「Cによる統計計算プログラミング」、「表計算によるゲーム分析や体力測定結果の集計」、「スポーツイベント案内のホームページ作成」を経験する。

表1 実習内容
期 日 実習内容(ソフト)
1日目 文章作成(一太郎)
2日目 スポーツ情報検索と電子メール(UNIX)
3日目
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5日目
統計計算プログラム(C言語)
体力測定の集計やゲームの分析(Excel)
スポーツイベント案内の作成(Word)

 Cによるプログラミングでは、ポインタや構造体などを省き、できるだけ統計計算に必要最小限度の文法を用いているが、コンピュータの持つ厳格性を身につけるよい機会となっているようである。表計算は将来の卒論作成でも不可欠な教材であり、最近では中学高校体育教員の採用試験でも出題され、実習の最重要教材となっている。また、競技会や実技講習会などイベント案内も従来は「花子」「四季」などのグラフィックスソフトを用いるのみであったが、現在ではデジタルカメラなどマルチメディアも活用し、よりビジュアルなホームページを作成している。


4.授業以外の教育支援

 体育学部の入試科目に数学など理系の科目がないことを反映してか、授業に関するアンケート調査からもワープロ、インターネット関連、グラフィックなどの教材よりも、プログラミングや表計算など「計算」を中心とした操作は苦手な傾向があり、この種の技能の向上は短期間の授業では限界がある。しかも、体育学部生が自主的にセンターに出かけて行き、独力でコンピュータを操作することは実際問題としてはまずない。そこで、体育学部内施設にパソコン10数台を常時学生に開放し、授業だけでは不足がちな「コンピュータに接する時間」を補う「自習室」的役割を持たせている。この部屋には常時実習担当者がおり、機器のメンテナンスと同時に学生からの質問に応じている。もともとパソコン操作などが好きな、あるいは得意な理系の学生とは違い、授業以外にもかなりの教育支援が必要であると考えられる。


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