情報教育と環境

京都造形芸術大学の情報教育
学内情報とサイバーキャンパスの影響



1.はじめに

 瓜生山学園は、京都造形芸術大学(芸術学部7コース、通信教育部8コース)と京都芸術短期大学(造形芸術学科10コース、専攻科10コース)からなり、美術やデザインをはじめとする多様な領域をカバーしている。芸術系とはいえコンピュータの導入は早く、パソコンの誕生と同時にデザイン系コースを中心に活用が図られてきた。一方、学内LANに関しては、1994年ごろより研究室や教室単位での導入が試みられ、1997年度には全学規模の学内LANが整備され、今日に至っている。また、1998年度から新たに開設した通信教育部では、コンピュータやインターネットを積極的に活用し、その成果は通学部にも高く評価され、全学的な情報化に大きな影響を与えている。


2.情報教育の現状

 芸術系大学である本学では、コンピュータは、理工系で言うところの「計算機」としてよりも、表現のための新たな「メディア」としての性格が上位に位置付けられている。このような背景から、従来は単に道具としての情報機器操作に教育の重点が置かれ、いわゆる情報リテラシー教育が十分に行われない傾向にあった。また、美術系コースでは必ずしもコンピュータを必要とはしていなかったため、デザイン系コースで学ぶ学生と比べると、コンピュータ等の情報機器に触れたり学んだりする機会が少なかった。このため、コンピュータやネットワークそのものを理解していないために生じる様々な問題や、ワープロができないがために就職の機会を逸するなどの問題が懸念され、このような状態は直接学生の不利益につながることが多いと判断された。
 そこでこのような状況を打破すべく、現在情報リテラシーを考慮した科目の設置が進められている。また、小・中・高等学校でのコンピュータ操作を中心とした情報教育の普及とリンクし、従来の操作教育中心の情報関連科目を、情報リテラシー中心の内容へと転換していくことも議論されている。

(1)基礎教育における情報教育の特徴
 現状の基礎教育では、「基礎的な教養としての電子情報の理解と操作」「自ら学び続けるためのツールとしてのコンピュータ利用」を目指し、講義や演習がなされている。また、学生がコンピュータやインターネットに触れる機会を増やすためのパソコン教室の開放をはじめ、ラウンジや図書館などへのパソコンの設置が進められている。

(2)専門教育における情報教育の特徴
 一方の専門教育では、現代社会のテクノロジー偏重への不安から、「真に重要なのは、新しい表現の世界を切り開くイマジネーションにある」とし、安易に情報機器をツールとして利用したり、デジタルメディアに依存したりすることのないよう配慮している。


3.通信教育部におけるインターネット活用の現状

 通信教育部では、サイバーキャンパスを設置するなど、インターネットやパソコンを積極的に活用している。
 サイバーキャンパスを設置するにあたっては、日本全国に点在する学生にアクセスポイントを提供する必要性から、民間のインターネットプロバイダと提携をしている。サイバーキャンパス自体も提携プロバイダのイントラネット上に設置され、通信教育部生のみがアクセス可能なようにセキュリティを確保している。
 通信教育部生には、入学と同時にもれなくメールアドレスが発行される。しかし、サイバーキャンパスへの参加は個人の意志にゆだねており、強制はしていない。これは情報リテラシー能力の格差が著しい通信教育部生にとって、学習機会の損失につながらないように配慮したためである。

(1)サイバーキャンパス(ホームページ)
 通信教育部生に大学への帰属意識や学生生活を感じてもらい、モチベーションを高めることを目的に、インターネット上に「サイバーキャンパス」を設置した。レポートや作品の提出、添削返信、電子掲示板を利用したコミュニケーションや大学情報提供など、まさにキャンパスとして利用されている。

(2)学生ラウンジ(電子掲示板)
 サイバーキャンパスで最もにぎわうのは、この「学生ラウンジ」である。単にWebページを利用した電子掲示板であるが、学生、教職員らの双方向コミュニケーション手段として活発に利用されている。特に孤独になりがちな通信教育部生にとっては、心のオアシス的な存在となっている。開設当初は「学生ラウンジ」だけであったが、現在では、学生からの要望により「学習室」「オフ会の部屋」が増設され、合計3つの電子掲示板で運用されている。

(3)レポート提出
 パソコン上で取り扱い可能なレポート課題の多くは、インターネット経由の提出が可能となっている。学生は、WWWブラウザでサイバーキャンパスに設置されたレポート提出窓口にアクセスし、画面の指示に従って操作をすれば、レポートの提出ができる仕組みになっている。提出されたレポートは、教員がWWW上で添削を行い、その結果も学生がWWW上で確認できるようになっている。また、同システムは教務システムと連携しており、添削結果等は、自動的にデータベースに反映されるようになっている。

(4)研究室
 サイバーキャンパスには、各コースごとに研究室が設置されており、教員からの課題説明や学習サポート、優秀作品紹介や事務連絡などに利用されている。運営は各研究室に任されており、それぞれ特徴ある研究室作りが進められている。

(5)購買部
 学習を進める上で必要な教材などをオンラインショッピングすることが可能となっている。画材など、地方では入手しにくい物の購入に重宝されている。

図 京都造形芸術大学の情報環境

4.通信教育とサイバーキャンパスが与えた影響

 サイバーキャンパスに代表される通信教育部の試みは、通学部でも高く評価され、全学的な情報化に大きな影響を与えている。特にインターネットやパソコンが、教育や学習、学生生活に与える影響は大きく、これまでの観念を根底から考え直すきっかけとなっている。

(1)通学部の情報化
 この通信教育部での試みを広く通学部の学生や教職員にも知ってもらおうと、通学部の学内LANとサイバーキャンパスをシームレスに連結し、相互にコミュニケーションできるネットワーク環境を構築する計画が進行中である。また、通信教育部の学生と教員から寄せられた「スクーリング時のノートパソコン利用」の要望は、通学部の「学生の情報端末携帯」構想と融合し、「どこでもパソコン・情報端末」構想へと発展している。
 これらの計画と連係し、通学部生にも通信教育部生と同様に、提携プロバイダへ加入を推奨することにしている。これは学生が自宅や帰省先など、キャンパス以外の場所にいる場合でも、電子メールやインターネットを利用できるようにと考えた結果である。もちろん、卒業後も継続して同じメールアドレスが使用できるため、卒業生、教員、大学間の継続的なコミュニケーションが期待できる。

(2)バーチャル同窓会
 この主旨に賛同した京都芸術短期大学同窓会では、インターネット上に「バーチャル同窓会」をテスト的に開設し、今春から本格的な運用を開始する予定である。既にサークルホームページの開設や運営ボランティアの希望も寄せられており、同窓生たちがバーチャル同窓会で再開する日も近そうである。

(3)事務システム
 一方、事務システムには大きな変革が求められている。従来の事務システムは、大学側主導で構築されてきた。このため、学生の年齢層が狭く、直接対話可能な通学部では問題も少なく、発生してもすぐに対応できた。しかし、通信教育部のように学生の年齢層や職種が広い場合には、発生する問題も多岐に渡り、直接対話の難しい状態も相まって解決には時間がかかり、学生サービスの質の低下が起きた。この問題の重要性から、現在急ピッチで学生ニーズ主導の事務システムへと再構築を進めている。
 また、同時に教職員にも変革が求められている。これまで、情報リテラシーを教職員に求めることは少なかったが、サイバーキャンパスを適正に運用していくには、高い情報リテラシー能力が要求される。近い将来訪れるであろうサイバー社会に対応できる人材を育成することは、本学にとって大きな課題の一つである。


5.終わりに

 現在、通信教育部では、「遠隔スクーリング」実験というTV会議システムを利用した新たな試みが始まっている。本学では、TV会議システムを、距離を隔てた空間を結合するために使用しているが、仮想的な一体感と物理的な地理の差が、思わぬ学習効果となって現れたりするのが興味深い。
 テクノロジーの発達が、教育現場を変えようとしているのが肌で感じられる。通信技術の発達により、キャンパスにいる学生とネットワークの向こうにいる学生の区別がつかなくなるかもしれない。サイバー社会の発達により、学生と教員の関係があいまいになるかもしれない。その時、大学はどうするのであろうか。いずれにせよ、本学はこれからも新たなことへと挑戦していく決意である。



文責: 京都造形芸術大学
  情報システム室長 福井 亨

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