第１分科会 ICTツールを効果的に利用した組織的な学生支援を考える
運営委員 大竹 貞昭（明 治 大 学 ）
宮川 良男（東京理科大学）
廣野 哲郎（慶應義塾大学）
斉藤 和郎（札幌学院大学）
毛利 立夫（立 教 大 学 ）
１．分科会のねらい
学生の学習観、将来観、基礎学力が多様化する今、予測困難な時代を生き抜く基盤的な力を学生に身につけさせるには、教職員それぞれが専門性、組織的対応力を発揮し、相互に連携・協働する中で学生の学びを支援し、指導や助言の質を保証する戦略が問われている。
本分科会では、学修ポートフォリオや学生カルテを利用して学生の学びや諸活動を把握・分析・共有する実践例に学ぶ。そして、これらICTツールを活用して教職員が連携・協働し、学生の成長を支援する取組を展開する上で解決すべき課題を考える。
２．討議テーマ
・学修ポートフォリオの教育的意義（学びの目標設定と進捗度の把握）
・学生カルテの具体化（教職員間で共有する情報とは何か？）
・教職員の連携と協働の促進、個人情報保護など運用面での課題
３．獲得目標
・ポートフォリオの教育的意義を認識する
・学生カルテを利用した組織的な学生支援を具体的にイメージできる
・ＩＣＴを活用した学生支援を進める上での課題を認識する
４．概要
（１）全体的な流れ
� 〇�前研修
研修会直前の１０日間という短い期間であったが、メーリングリスト上で自大学の取組の現状や討議希望のテーマ、研修に期待する事などを報告し合い、本分科会のねらいへの認識を高めるとともに参加動機付けを図った。
�◆（�科会討議
４８名の参加者を６つのグループに分割してディスカッションを行った。また、そのまとめを発表し合い、グループ間で情報共有を図った。
（２）学修ポートフォリオ
� 〇�例紹介
株式会社朝日ネットの清野哲矢氏から、ポートフォリオの概要、各大学の導入事例を説明頂いた。また、立教大学の並木俊之氏から、リーダーシップ定着度を時系列に記録・分析するポートフォリオというタイトルで、導入経緯、活用事例、学生や教員の視点などについて説明頂き、質疑応答、意見交換を行った。
�◆．哀襦璽廛妊�スカッション
事例を参考に「ポートフォリオの教育的な意義とは？」、「事例をさらに改善，発展させるとしたら？」というテーマで話し合われた。学生情報を活用する目的、定義、その活用法とメリット、デメリット、理想像と課題等を整理しながら、ポートフォリオの理解を深めた。さらに、これらの成果をグループ間で相互発表することによって自グループの討議内容と結論を省察し、ポートフォリオの教育的意義や導入にあたっての課題について認識を深めることができた。
例えば、研修終了時点での「自己評価シート」には、次のようなコメントが寄せられた。
・ポートフォリオの教育的な意義、目的は理解することができた。ポートフォリオの取り組みについては、
蓄積するだけではなく評価
・指導・到達度を示すことでより良くなると思う
・その授業で完結せず、授業間、カリキュラム内での継続性、授業内の可視化、授業内容の改善、
利用促進の方策としてカリキュラムに入れ込むことも必要
・目に見える明らかな成果というものを実感しづらいのもポートフォリオ導入に踏み切れない大学が
多い理由かもしれない
（３）学生カルテ
�� 事例紹介
札幌学院大学の斉藤和郎氏から、教職員が連携して学生支援に取り組むための情報共有ツールについて解説があった。解説は２つのパートに分かれ、前半は、システム導入にあたっての基本的な考え方と具体的取組の紹介が行われた。後半は、教職員が一体となって学生ひとり一人の視点に立った個別支援を展開するために、小さな試行を積み重ね、その成果や問題を共有し、教職員が対話する中から新たな価値を生み出そうとするアプローチが紹介された。最後に、「カルテを活用した学生支援モデルとして、あなたの大学ではどのような取組があると考えますか？」という問いかけが行われ、メーリングリストを通じた意見交換（事後研修）に引き継がれた。
�� グループディスカッション
前半のパートでは、「何のために学生カルテを導入しようとしているのか？」、「それを実現するため、組織的にどのような情報を共有すればよいのか？」という観点で意見交換を行った。後半は、「ドロップアウトをいかに抑止するか？」といったテーマで実践的な観点、つまり「教職員が連携し、チームとして活動することの意義とは？」、「教職員が連携することの難しさとは？」、「連携を促すために私たちは何をすべきか？（職員の役割）」という３つの観点から意見交換を行った。
その結果、学生カルテを導入した修学支援、キャリア形成支援の実践に関して、教職員がどのような役割で関与するのか、それを成功に導くために何が求められるのかといった「人と組織の問題」について課題を認識することができた。例えば、研修終了時点での「自己評価シート」には、次のようなコメントが寄せられた。なお、事後研修は活発ではなかった。
・事務組織内での意識共有をもっとすべきだと改めて思った。それが達成して初めて教員との協働が
実現すると思う
・職員間の協力と教員と職員がいかに連携するかについて、日々の対話など小さな事から少しずつ
行っていくしかないと思う。システムだけでなく、いかに使うか、どう使うか、学内で検討していければと思う
・職員としてどのように学生支援に関わるべきか日頃考えていたが、今日の研修で課題や目標が見えた気がした
５．まとめ
本分科会では、学修ポートフォリオや学生カルテ等のICTツールを利用して学生の学びや諸活動を把握・分析・共有する取組について、その背景や目的、ツール活用の意義を確認するとともに運用のイメージを具体化し、これを適用するにあたっての諸課題を認識することを目指した。
48名の参加者は所属部署も多様であった（情報システム、教務、学生支援など）。実践報告に対する意見交換と自大学の実情交換、討議テーマに沿った議論を重ね、討議経過をグループ間での相互発表する機会も設けた。
その結果、まず学修ポートフォリオについては、学生の自律的な学びを支援するツールであり、メンタリング等組織的な支援体制のもとでその目的が達成される、という認識を共有することができた。一方で、ここに蓄積されたデータを機関レベルで点検・評価し、カリキュラムやコースの改善に活かすという観点からの議論は必ずしも十分ではなかった。
学生カルテについては、教職員間での課題認識の共有化など組織的な連携を構築する重要性について認識を確かにすることができた。また、中途退学を抑止するというテーマで実践的な活用モデルの検討を試みたが、時間的な制約からその具体化までには至らなかった。
「自己評価シート」によると、3つの獲得目標に対する達成度は、いずれも9割前後と高く、本分科会は所期の目的を達成できたと考える。
・ポートフォリオの教育的意義を認識する（達成度93.3%）
・学生カルテを利用した組織的な学生支援を具体的にイメージできる（同88.9%）
・ICTを活用した学生支援を進める上での課題を認識する（同90.9%）
なお、参加者からは「テーマに対して討議時間が短い」等、研修運営に関する問題点が指摘された。例えば、討議テーマの精選、事前研修での情報提供、事後研修でのフォローアップなど、改善へ向けて課題を整理したい。