第２分科会 大学教育の質的転換を図るためのICT活用を考える
運営委員 土肥 順一（京都産業大学）
久保田 学 （早稲田大学）
志田 紀子 （東海大学）
川崎安子（武庫川女子大学）
アドバイザー 斎藤真左樹（日本福祉大学）
１．分科会のねらい
学生がみずから主体的に考える力を育成するため、教授法の抜本的改善が求められている。例えば、対話型授業や協調学習、教室外の自学自習、科目間連携や学修成果の組織的検証などである。これを効率化、経済化する上でeラーニングやソーシャルメディア（“Twitter”や“Facebook”等）、モバイルツール（クリッカーやスマートホン等）への期待は大きい。
本分科会では、まず、教育の質的転換を図ることを狙いとした新たな教授法やその動向について情報交換、意見交換等を行う。続いて、それぞれのICTツールが持つ教育的な有用性を整理し、これらを導入・運用するにあたっての課題や教育の質的転換を支える職員の役割について考える。
２．討議テーマ
（１）学生を主体的な学び手に変革するためのICT活用の動向
（２）eラーニングやソーシャルメディアなどICTツールの特性（教育効果と運用面での課題）
（３）ICTを活用した教育の質的転換を推進する際に求められる職員の役割
３．獲得目標
（１）大学教育におけるICTツールの有効性について理解を深める
（２）大学教育の質的転換を図るために期待される職員の役割について認識する
４．概要
（１）全体的な流れ
�〇�前研修
分科会を円滑に進めるため、メーリングリストを通じて「自己紹介」と「自大学における教育用ICTの活用状況と課題」、「討議希望テーマとその理由」などについて、投稿を課した。事前に互いの現状を共有することで、当日はスムーズに討議を始めることができた。
�∋�例研究
ICTツールを活用した「対話型、問題発見・解決型教育」実現のための実践報告と、eラーニングの利点を最大限に活かした教職協働の教育改革事例の紹介を行った。
また、モバイルツールの活用事例として、クリッカーのデモンストレーションを行った。
��グループ討議
参加者37名を5グループに分け、事例紹介に対する意見交換と、グループ内各校における実践事例の紹介を行った。
�ぅ瓠璽螢鵐哀螢好箸砲茲觧�後研修
全体会での基調講演を含め、分科会でのグループ討議を振り返り、その内容とまとめをグループごとに投稿してもらうことを事後研修とした。
（２）事例紹介
� 崑佻歎拭¬簑衄�見・解決型教育」への移行を実現するICT活用モデル構築に向けた取り組み
−教職協働による教育の質向上を目指して−
永間広宣氏（早稲田大学遠隔教育センター事務長）
大前研二氏（早稲田大学メディアネットワークセンターマネージャー）
早稲田大学では、職員主導で進められている「情報化推進プログラム」を軸に、業務システムも含めてすべて独自で開発している。例えば、LMS「Course N@vi」では、教員や学生のニーズを的確に取り込み、満足度と学習効果の向上を図ることで、専任教員の利用率が9割に達し、ICT活用授業のプラットフォームとして定着した。最近の試みとしては、ICTを効果的に活用した授業のグッド・プラクティスを表彰する「e-Teaching Award」を創設し、共有化と可視化を推進している。教員の要求の一歩先を提案することができる、職員ならではの「知｣と「情熱」が大切であろう。
�∩反ヅ�なe-Learningを活用した教職協働による教育改革のヒント
斎藤真左樹氏（日本福祉大学大学事務局長）
日本福祉大学では、実践型少人数教育の実現と、資格・免許の履修機会の拡大を企図し、新たな学習形態として組織的にeラーニングを導入した。教員との事前準備から、撮影編集、授業開講に至るコンテンツ作りに全教員を参加させたことが成功要因のひとつと言える。また、予算がなければ外部資金を取ればよいと考え、多くのGPを獲得した。オンデマンド授業科目を組み入れることで、自校教育の効果も見られた。やはり、職員一人ひとりが気概と責任感を強く持ち、PDCAサイクルを意識して業務に取り組むことが肝要である。
（３）討議内容
2大学の事例発表を受けて、3つの討議テーマを意識しながら、グループごとにディスカッションした内容を発表した。具体的には以下に挙げる意見に集約された。
ソーシャルメディアを活用した事例は、個々の教員レベルにおいて見られるものの、大学として運用方針を明確にした上で積極的かつ効果的に利活用されているケースは、参加校の中では見受けられなかった。
・システムの利用率を上げることが、どの大学でも課題
・システムであれコンテンツであれ、「何を実現するために」という目的が大事
・どのような教育効果をもたらすのか、システムだけではなく、「人」も考える視点が不可欠
・教員や職員が主体ではなく、あくまでも学生が主体
・やはり職員に専門知識は必要。合わせて、広く業務を俯瞰することも大切
・もちろんコスト意識も忘れずに
・上層部や教員が判断できるような情報の提供・報告は、課員の責務。そのためのプレゼンテーション技術も重要
５．まとめ
本分科会では、教育の質的転換を図ることを狙いとした新たな教授法やその動向について情報提供と意見交換を行った。様々な教育改革事例を通じて、いま我々大学職員に期待されている役割とは何か？を参加者個々人が真摯に考え、認識する場となることを目指して進行した。
参加者は、情報系を中心に教務系や図書館等幅広い部門から37名の参加があり、従来の応用コースと比較して特筆すべきは、教員の参加が複数見られたことだった。事前研修の段階で、各大学における教育用ICTの活用状況や課題を共有していたことから、少人数グループに分かれての討議では、スムーズかつ活発な議論が交わされたが、時間的な制約もあり、各自が抱える窮状を吐露するのみで終わった感が否めず、事後研修の工夫が今後の課題として残った。
研修中盤で実際に行った「クリッカー」のデモンストレーションでは、初めて使用する教職員が7割を占め、ゲーム感覚で参加できる新しい学習スタイルとして実際に体感できたことは大変有意義だったと言える。
終了後に提出された「自己評価シート」では、本分科会で掲げた獲得目標に対して、約8割の参加者が「十分に達成できた」「まあまあ達成できた」と回答しており、概ね達成できた様子がうかがえた。特に、2大学の事例から得られた「職員力」の醸成について、「情熱を持って教育改革に取り組むことの大切さを痛感した」と言及した感想が多く見られた。これらの気づきや学びを活かし、自大学での教育戦略の改善につながればと強く願う。